~ 第1章 高齢者虐待と認知症の理解 ~
自分の人生を自分で決め、周囲からその意思を尊重されること、つまり、 尊厳ある人生を送ることは、介護を必要とするか否かに関わらず、高齢者で あるか否かを問わず、誰もが望むことです。
しかし、現実には、高齢者の人権を侵害する「高齢者虐待」が社会問題化 しています。
高齢者の中には「つらくても」、「不満があっても」、声を上げられない人が いると思われます。
また、介護をしている人の中にも、「介護疲れ」や「認知症への知識・理 解不足」などの理由で、気付かない間に虐待をしてしまっている人がいます。
一般的に、高齢者と何らかの関係のある人によって、高齢者の心身に深い傷を 負わせ、高齢者の基本的人権を侵害する行為とされています。
暴力を振るって、体に傷やアザ、痛みを与えること。 外部との接触を意図的、継続的に遮断すること。
身 体 的 虐 待
殴る。つねる。蹴る。無理やり食事を口に入れる。やけど、打撲させる。 ベッドに縛り付けたり、意図的に、過剰に薬を服用させたりして身体 拘束・抑制する。など
例
脅しや侮辱など、言葉や威圧的な態度、無視、嫌がらせな どによって、精神的苦痛を与えること。
心 理 的 虐 待
怒鳴る。ののしる。悪口を言う。
話しかけているのに、意図的に無視をする。侮辱をこめて子供のよう に扱う。排泄の失敗などを笑ったり、人前で話す。など
例
本人の合意なしに財産や金銭を使用すること。本人に理由 なしに金銭を使用させないこと。
経 済 的 虐 待
生活費を渡さない、使わせない。
自宅などの財産を、本人に無断で売却する。
年金や貯金を本人の意思や利益に反して使用する。など 例
性 的 虐 待
本人が同意していない、あらゆる性的な行為やその強要。
排泄の失敗に対して、懲罰的に下半身を裸にして放置する。 キス・性器への接触・セックスを強要する。など
例
必要な介護サービスの利用を妨げる、世話をしないこと等により、 高齢者の生活環境や身体的・精神的状態を悪化させること。
介 護 ・ 世 話 の 放 棄 ・ 放 任
例
「高齢者虐待」とは?
高齢者虐待に対する認識を高めることはもちろん、介護をする人の負担を軽く し、悩んだとき、困ったときに気軽に相談できるような環境が重要です。
少し前のことを覚えていなかったり、同じことを繰り返し聞かれたりして、つ い怒鳴ってしまうことなどがあるかもしれません。これまでとは違う対応を求め られたり、認知症の症状を受け入れることができなかったりすると、日ごろから ストレスが溜まり、結果的に虐待に繋がってしまうといった場合があります。 大切なポイントは「早期発見・早期診断」です。認知症に関する相談窓口や、専 門医療機関(参考資料「認知症に関する相談・連絡先一覧」参照)を訪れることに、 強い抵抗感を覚える人は少なくありません。しかし、認知症は、早期に発見して、 診断を受けることが大切なのです。そして、早期に適切なケアを受けることで、 症状をやわらげたり、薬によって進行を遅らせたりすることができるのです。 また、専門的な立場からのアドバイスを受けることにより、認知症に対する「心 構え」と、うまく暮らしていくための「備え」を持つことができます。
介護をすることは、肉体的にも精神的にも大きなストレスとなることがありま す。こうしたストレスを溜め込まないことが、介護をする人と受ける人の人間関 係を円滑にする秘けつです。
介護保険サービスの利用や、高齢者の福祉サービスなどを活用することで介護 負担を軽くすることもひとつの手段です。
気にかかるどのようなことでもいいので、ケアマネジャーや地域包括支援セン ターなどの相談窓口に相談しましょう。
1 介護の負担を軽くすること
寝たきりや認知症など、身近に介護が必要な高齢者がいる家庭がある場合は、 地域から孤立しないよう、温かく見守りましょう。
もし、虐待を疑うようなことに気付いた場合は、自分ひとりで悩まず、どんな 小さなことでもいいので、地域包括支援センターや民生委員などに連絡・相談し てください。
2 地域で支えあうこと
高齢者虐待を「防止」するために
高齢者虐待につながる理由のひとつ
「認知症」に対する知識・理解の不足について
Ⅱ
認知症の人に適切に対応するためには、認知症に関して十分に理解することが 必要です。
認知症にはどんな種類があり、どのような症状が出るか、どうケアすれば本人 が安心するかを知り、そして地域で、お互いに支えあう人たちがいれば、住み慣 れた場所での暮らしが続けられるのです。
高齢社会にあって、認知症は、誰に起きても不思議ではありません。近年は、 働き盛りの世代で発症する若年性認知症も増えてきています。
「あれ?」「ちょっとおかしい・・・」と感じた場合は、早めに相談窓口や認知症 に関する専門医療機関で相談・受診することが大切です。
認知症とは、「もの忘れが激しく体験したことをすべて忘れてしまう」「道具の 使い方や着替えの仕方が分からなくなる」「同じことを何度も聞いてきたり、意味 不明なことを言う」など、脳の働きが低下し、日常生活に支障を来たす状態のこ とを言います。
認知症は、脳の神経細胞が減少することで起こる「アルツハイマー型認知症(全 体の 40 〜 60%)」が最も多く、次いで、脳の血管が詰まることで起こる「脳血管 性認知症(15 〜 30%)」、そして、脳の神経細胞に特異な変化(レビー小体)が出 現する「レビー小体型認知症(15 〜 20%)」などが代表的で、認知症の多くがこれ らのタイプによるものです。
認知症は、高齢になるほど発症率が高くなります。65 歳ではわずか数パーセ ントの発症率ですが、75 歳を過ぎるころから急激に増え、85 歳を過ぎると 4 人に 1 人は認知症の高齢者と言われています。
1 「認知症」とは?
2 変化に気付いたときが「早期発見・早期診断」のチャンス
認知症と似た症状に、「高次脳機能障害」があります。
参考として、ここで、この障害について触れてみたいと思います。
【高次脳機能障害とは】
この障害は、精神疾患ではありません。脳血管障害や頭部外傷、感染、中 毒疾患などの様々な原因によって、脳が損傷を受けたために起きる症状(後 遺症)であり、言語・思考・記憶・行為・学習・注意などの知的な機能に障 害が発生した状態を指します。
その状態については、大別すると 10 種類程度に分類されますが、ここで は、その中で主なものを紹介します。
参考資料:「高次脳機能障害者の実態と支援施策に関する要望」 (平成17年6月)
東京高次脳機能障害協議会代表 矢田千鶴子
【高次脳機能障害の特徴】
○ 話せない:「失語」
○ 覚えられない:「記憶障害」 ○ ぼんやりしている:「注意障害」
○ 行き当たりばったりの行動をする:「遂行機能障害」 ○ すぐ怒る:「感情コントロールの低下」
○ どこが悪いか自覚がない:「病識の欠如」
○ 外見からはわかりにくい ○ 性格のせいにされる
○ 短時間会っただけでは、障害であることが理解されない ○ 身体障害者手帳を取得できないことが多い